優良児童回想録

おにぎりはツナマヨ

ル・プティぼぬ〜る(小説ちっく)

 

あの子がまだ日本橋で15個離れた彼氏と同棲してた頃、私は高校に通ってた

それはちょうど2年前くらいで、バレンタインの話になって、「私の住んでるところの近くに小さいけどめっちゃ雰囲気のいいショコラやさんがあるから一緒に買いに行こうや!」と言われて一緒に行く約束をした

 

お店はなんて言う名前?

えっとーたしか、ル・プティぼぬ〜る!

 

彼女はよく打ち間違いや変換ミスをする。私はそれが昔からものすごく嫌いだが突っ込んだりしない。だからそのときもボヌールがボヌールでないことに対して若干イラついたが「検索してみる」とだけいって触れなかった。

 

当時、日本橋に住んでた頃のあの子はとても遠く感じた。今思い出しても、私たちの歴史の中でやはり一番、あの子は遠かった。日本橋の駅を出て、歌舞伎座、汚らしく煩い玉出を曲がって、(私は音楽を聴きながら)いつも気軽に会えていた頃を思い出していた。ほんとは毎日ずっと一緒にいたい。もうすぐ待ち合わせ場所に着くというのにどうしようもない切なさを噛み締めていたのを覚えている。私は彼女が、いつだって私より男の人を優先するのが哀しくてしょうがない。

 

ル・プティぼぬ〜るは小さくて、とても居心地のいい空間だった。ツヤツヤキラキラしたショコラたちが均等に並べられていてなんだかとてもときめいた。

彼女はチョコレートの詰め合わせを数箱買って、そのうちの一箱はそのあとふたりで「彼氏と住んでる家」で食べた。私は当時付き合っていた人へ渡すショコラを予約した。

 

 

ル・プティぼぬ〜るは、いつの間にか無くなっていた。看板もキラキラしたショコラたちも消えて、私の当時の想いも熱を失っていた。でも、あの思い出とあの子とふたりで食べたショコラの味はとてもよく覚えている。ボンボンショコラ。マカロン。目障りな玉出を曲がって、青信号が異様に短い交差点を小走りで渡りきったその先に、幼かった私のどうしようもない気持ちを包んでくれた甘い空間があったことを忘れたくない。